梅下のとはずがたり

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【ネタバレ含む】胡蝶カナエ・しのぶの考察

今回は胡蝶カナエ・しのぶ姉妹の名前やモデルになった神様や人物について考察してみようと思います。

今回は原作を既読の方に対しては大したネタバレは含んでいないと思いますが、うっかり事故ることもあり得るのでネタバレ含むとしています。

知りたくない方はご注意ください。

鬼滅の刃 6 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

◆まず二人のプロフィールから見ていきます。


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出典:『鬼滅の刃吾峠呼世晴集英社出版 コミックス7巻

胡蝶カナエ

東京府 北豊島郡 滝野川村(現:北区 滝野川)出身。
しのぶの姉。
生前は花の呼吸の使い手で花柱。


両親を鬼に殺された自分たちと同じ思いを人にさせたくないと鬼を狩る一方で、鬼も救いたいという慈愛の心の持ち主だった。

上弦の弐 童磨と戦い死亡。享年17歳。

 


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出典:『鬼滅の刃吾峠呼世晴集英社出版 コミックス6巻

胡蝶しのぶ

胡蝶カナエの妹。
蟲の呼吸の使い手、蟲柱。
姉と同様に医学の心得があり、鬼殺隊の医療班的な役割を担うこともある。
両親が薬の調合に携わっていたため薬に詳しく毒にも精通している。


姉より小柄で鬼の首を切る力はないが、藤の花から作られた毒を仕込んだ刀を使って鬼を滅する。速度ある突き技が得意。


「鬼と仲良くすればいいのに」と口では言うが、人を喰うため浅ましい真似を平気でする鬼どもは全滅させてやるが本音。


善逸いわく「顔だけで飯食っていけそう」なほど可愛い。


上弦の弐 童磨に吸収されて死亡するも、全身に毒を巡らせており、体内から大ダメージを与える。
また珠世と共同研究して作り上げた対無惨の毒は、戦う仲間の大きな助けになった。
享年18歳。


◆胡蝶三姉妹と宗像三女神

他のキャラクター同様、神様がモデルに組み込まれていると考えられ、胡蝶三姉妹は宗像(むなかた)三女神がモデルに組み込まれいると考えられます。


三女神はアマテラスが生み出した美しい三姉妹の海神で、海だけでなく海を行く人々の行く先を照らす「道の神様」でもあり、福岡県の宗像大社(むなかた たいしゃ)に祀られています。

水の神様でありながら日の神から生まれた、その両方の特性を持っている神様と言えるでしょう。

宗像大社沖津宮(おきつぐう)、中津宮(なかつぐう)、辺津宮(へつぐう)と三つの宮にそれぞれの女神を祀っています。

誰が姉で妹かは説がいくつかあるようですが、日本書紀 本文の記載に依れば沖津宮のタゴリヒメが長女ですので、カナエさんが沖津宮に祀られるタゴリヒメにあたると考えられます。
名前には霧立ち込めるの意味があるそうで、
独身の女神であり宮は女人禁制とのこと。
沖津宮は一番沖にあり、行く先を示す神様です。
強敵に立ち向かう妹たちを、死んでもなお、時に叱咤し励まし、優しく導いてくれるお姉さんです。


続く次女のしのぶさんは中津宮タギツヒメにあたるでしょう。
タギツとは波立つの意味だそうです。
姉の遺志を継ぎ、穏やかそうに振る舞っていたしのぶさんですが本来は活動的な人だったようですし、心中はざわめくものを抱えている様子でした。


中津宮の島には七夕伝説があり、織姫彦星に相当する織女社と牽牛社、天の川に見立てた小川があります。
宗像大社によりますと、七夕伝説発祥の地だそうです。


伝説は以下のような話です。

 

唐に渡った貴公子が織女を伴って帰国後、二人は離ればなれとなり、日々織女に想いを寄せていたら、ある夜の夢枕で、天の川にタライを浮かべると水鏡に織女が映るとのお告げがあり、それから貴公子は神仕えをしたと伝えられています。(宗像大社 公式サイトより)


明確に死んだとは書かれていませんが、水鏡でしか逢えないというのは死に別れたと解釈できるかと思います。(ずっと遠くから覗き見てるとは思いたくない…。)

 

カナエさんもしのぶさんも愛する人たちと長く共にいられない過酷な人生を運命づけられているように思われます。


◆胡蝶カナエの名前の由来

まず胡蝶しのぶの姉である以上、名字はもちろん胡蝶です。

胡蝶は蝶々のことですが、花の名前にもよく使われています。
下の名前のカナエは洋蘭 カトレアの一種、カナエに由来しているのではないかと思います。
「洋蘭」とはもちろん西洋蘭のことですが、「洋」は海を意味しますし、「蘭」は花です。字をそのまま読めば、海と花を両方意味していることになります。
また蘭の仲間には胡蝶蘭があります。カナエをただ蘭と解釈するならば「胡蝶蘭」と読むことができ、花の名前になるのです。
落ち着きがありながら優美で華やか、カナエさんのイメージにも合うかと思います。


とはいえ、先述のとおり胡蝶とつく花は蘭以外にもたくさんあります。
なぜ蘭が選ばれたのでしょうか?


私は姉妹のモデルに「高場 乱(たかば おさむ)」が含まれているからではと考えています。
高場 乱は福岡の三女傑と呼ばれた人物の一人で、福岡藩に仕える名門の眼科医の子として生まれ、女でありながら男として育てられました。虚弱で華奢な身にも関わらず、医療を提供する傍らで薬用人参畑の跡地に塾を開いて教育にも力をそそぎ、多くの弟子を育てたそうです。
「眼」「医療」「薬」「教育」「女傑」「華奢」など、胡蝶姉妹を彷彿とさせるキーワードがいくつも含まれています。
カナエさんの名前は「乱(おさむ)」を「ラン」と読み変え、「蘭」に変換して発想を得ているのかもしれません。


また「カナエ」には「鼎(かなえ)」の意味も含まれているのではと考えています。
鼎とは中国で儀式に使われていたという「三つ脚」の器ですが、数字の3そのものを意味することもあります。
日本では三つ脚の花器を鼎と呼びます。

三姉妹をまとめる花の器。すなわち、カナエさんです。

 

胡蝶姉妹が三人姉妹になったのは物語上ではあくまで偶然と成り行きによってのことであり、物語時点では一人亡くなっているものの、胡蝶姉妹は三人だということが強く意識されていることが読み取れるかと思います。

 

◆胡蝶しのぶの名前の由来

名字の胡蝶は蝶々の意味ですが、石見神楽で侍女に化けた土蜘蛛が名乗った「胡蝶」から由来していると思われます。

この胡蝶は頼光を油断させて毒を盛るという役どころです。虫だけではなく、毒のことも意味しているんですね。


下の名前「しのぶ」にはおそらく由来が3つあります。
まず、シダ植物にシノブという植物があります。胞子で増えるので花は咲きません。
カナエさんやカナヲと関係ある植物の名前でもありながら花の呼吸の使い手ではないので花の名前は使われていないのでしょう。


2つ目は水の神と崇められた山であり大蛇とオオムカデが戦ったという信夫(しのぶ)山です。


3つ目は白石噺(しろいしばなし)という実話を元にした復讐劇の登場人物です。
理不尽に父親を殺された姉妹が仇討ちをする物語で、姉が宮城野(みやぎの)・妹が信夫(しのぶ)です。
白石噺は歌舞伎や浄瑠璃などで昔人気があったので各地に似た話が残っているのですが、おそらく宮城県白石市に伝わるものからとられたのでしょう。


白石噺の信夫は薙刀を得物としていたので、胡蝶しのぶも突き技を得意とするキャラクターになったと思われます。


ただ設定をそのまま写しとるのではなく、突き技が得意な反面、斬撃する力がなく突き技しかできないことが彼女のコンプレックスにもなっているというところが鬼滅の刃作品のオリジナリティーであり人物の深み、おもしろさだと思います。


宮城県白石市は若林公園という藤が有名な公園があり、名産品には蛇蜻蛉(へびとんぼ)で作られる薬があります。しのぶさんのイメージにぴったりという感じです。


胡蝶姉妹の名付けのすごいところは、一方では毒や蟲に関係する名前になっているし、もう一方ではちゃんと花を意味する名前にもなっているところだと思います。
しかもどちらも一見しただけではそのこだわりがわからないようになっていることも驚きです。


◆虫柱ではなく蟲柱

しのぶさんの蟲柱の名前についても少し考えてみたいと思います。

そもそもトドメを刺すのは毒なのに毒柱ではないし、胡蝶という名前だけど虫柱とは書かず、蟲柱。


「虫」と「蟲」の字に違いですが、蟲と書いた場合、いわゆる六本足の昆虫だけでなく蛇や百足(ムカデ)の類いも含んでいます。

しのぶさんの技には「百足蛇腹」という技もあり、六本足の昆虫以外も含まれていることがわかります。


特に百足(ムカデ)はどちらかというと、あの外見からして退治される方ではないか?と思うのですが、百足といえば神の使いとされることもあり、蛇と争うほどの力を持っているとも言われます。
昔話の中には鬼退治のお供に加わっている話もいくつかあるので、鬼退治側にいたとしても不思議ではない、ということでしょうか。


さらに言い伝えによりますと、百足の弱点は水だそうです。

 

◆2人の出身地  滝野川

名前とは関係ありませんが、出身地とされている滝野川村、現在の北区滝野川にある滝野川八幡神社は、御朱印帳の図柄が勝ち虫といわれる蜻蛉(とんぼ)と海を合わせたものです。
海と虫という図柄はかなり珍しい印象を受けます。
蟲柱と海神である宗像三女神の取り合わせのようでここを出身地に設定した吾峠先生のこだわりを感じます。


胡蝶姉妹は虫に例えるなら蜻蛉だったのかもしれません。
蜻蛉が勝ち虫と呼ばれるのは、前進しかしないことからですが、諦めや退くこと選ばない姉妹の生き様が重なります。

 


◆まとめ

今回は胡蝶姉妹の名前の由来やモデルについてを考察してみました。


煉獄さんの死も衝撃でしたが、鬼に吸収されてしまったしのぶさんの死はそれ以上に衝撃でした。衝撃というか状況を飲み込めてない感じでした。
アニメでも馴染みがありましたし、人気もありそうなので実は死んでないんじゃないかと思いたかったのですが、そんな甘いことはないのが鬼滅の刃ですね。

 

しのぶさんは仇を討つ信念こそ変わらなかったけど、鬼や鬼殺に対する考えは徐々に変わっていったのではないかと思います。

生前、珠世さんを「人」と呼んだことにそれが端的に表れているんじゃないでしょうか。

カナエさんみたいにはなれなくても、自分で全て成し遂げられなくても、誰かが引き継いでくれると信じることで心に穏やかさを取り戻したようでした。

 

最終回では来世の2人の姿が少し描かれていましたが、今度こそ鬼のいない世界で幸せに生きていってくれたらいいなと思います。

 


◆参考文献、サイト
・原作『鬼滅の刃吾峠呼世晴集英社出版 掲載紙 週刊少年ジャンプ
・『公式ファンブック 鬼殺隊見聞録』吾峠呼世晴集英社出版 掲載紙 週刊少年ジャンプ
・『鬼滅の刃 しあわせの花』吾峠呼世晴・矢島綾 著 集英社出版
・石見神楽公式サイトhttp://iwamikagura.jp/
宗像大社公式サイトhttp://munakata-taisha.or.jp/
滝野川八幡神社公式サイト
http://www.takinogawahachiman.com/index.htm
wikipedia https://ja.m.wikipedia.org/
宗像三女神
「高場 乱」
白石市
・『福岡県謎解き散歩』半田隆夫・堂前亮平著 新人物文庫
・みんなの趣味の園芸https://www.shuminoengei.jp/?m=pc&a=page_mo_diary_detail&target_c_diary_id=745053
・「百姓の美人姉妹が武士を討った!福島県に伝わる、幼き少女たちの勇ましい仇討ち」馬場紀衣 記https://intojapanwaraku.com/culture/86091/

 

 


 

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