梅下のとはずがたり

思いつきを長々と語るブログ

【ネタバレ含む】我妻善逸の考察

鬼滅の刃 3 (ジャンプコミックス)

このまま、善逸の単独表紙はないんだろうか…。

我妻善逸の名前の由来について考察をします。

甘露寺さんの次は伊黒さんをやらなければいけないような得体のしれない圧のようなものを感じていなくもないのですが、とりあえず筆が乗ったので善逸にしました。

いつも長文ですが思いの丈をいくら書いても良いというブログの売り文句を真に受け、いつも以上に長文です。

 アニメしか観ていない人には単行本最新刊までのネタバレを含みますので、ご注意願います。

◆まずはプロフィールから

我妻 善逸(あがつま ぜんいつ)
東京府牛込区(現:新宿 牛込)出身の16歳。
誕生日9月3日。
炭治郎の同期、雷の呼吸の使い手。
修行中、雷に打たれて髪が金髪になった。

黄色地に三角模様の羽織を羽織っている。

優れた聴覚の持主で、遠くの音はもちろん、人が嘘をついているかどうかや、鬼と人間を音で判別することもできる。


炭治郎の妹 禰豆子に一目惚れして一途に求愛と求婚を続けている。(公式によると禰豆子には珍妙なタンポポだと思われている。)

鬼狩りになったのは「女性に騙されて作った借金を育手(鬼殺の剣士の育成者)に肩代わりしてもらった」という理由から。


雷の呼吸は六型あるが、現時点で善逸が使えるのは一の型 霹靂一閃と、オリジナル 漆の型 火雷神二型のみ。
使える型こそ少ないが、一撃で倒せない場合、連続で繰り出す霹靂一閃 六連・八連、さらに速さを極めた霹靂一閃 神速などバリエーションを持たせている。

オリジナルで編み出した漆の型は、鬼に堕ちたかつての兄弟子 獪岳(かいがく)を斬る際に使われた。それまで善逸は気絶するように眠らないと実力を発揮できなかったが、これ以降は眠らずに戦う。


野山の花で花輪を作るのが得意。
お寿司や鰻、甘いものが好き。

 

田舎風でもないけどバリバリ都会育ちって感じにも見えないのですが、彼は新宿育ちだそうです。

他で語れそうなところがないのでここで語りますが、羽織の三角模様は家紋から来ていると思います。家紋での三角模様は「竜の鱗」を表します。

「雷の呼吸」の一派が同じ羽織を着ているので、「雷神=龍」を意味しているものだと考えられます。


◆善逸のモデルは?

善逸のモデルは源頼光(みなもとのよりみつ)がベースになっていると考えています。
頼光は頼公(らいこう)と呼ばれることも。らいこうはもちろん雷光と掛けています。
雷といえば該当するのは善逸です。
頼光には弟が鬼だったという伝承もあります。
石見神楽「大江山」の鬼退治メンバーでは、一番年上で、炭治郎たち同期組の中では善逸が一番年上であることも合致します。


また、物語版『大江山』の鬼退治のメンバーである藤原保昌(ふじわらのやすまさ)も設定に組み込まれていると思われます。
というのも保昌は本来、頼光とツートップのような立ち位置ですが、石見神楽『大江山』には登場しないため、石見神楽においては頼光がその役割を兼ねていると考えられるからです。

 

◆石見神楽『大江山』と善逸

神楽から由来していると思われるものは、善逸の戦い方と技にもあります。

まず善逸の戦い方の特徴といわれる「眠ると強くなる」、これは正確に言うと「本来の実力を発揮する」ですが、実はこれは善逸に限った特徴ではありません。

鬼滅の刃』においてはキャラクターが追い詰められた際、眠る•気絶•昏倒していまい、目覚めた直後に強くなったり新技を会得したりということは、キャラクターに関わらずわりと多くあるパターンです。

善逸の場合、アニメでのサブタイトルになったり、前後のギャップが大きすぎる上に回数が多いので、他より目立っているに過ぎないと私は思います。

そしてこの「意識喪失後パワーアップして復活」のパターンが、『大江山』の物語に由来していると考えられるのです。

大江山』にて部下と共に鬼退治に向かった源頼光は、夢の中で八幡大菩薩(はちまんだいぼさつ)から「神変奇特酒(神便鬼毒酒)(じんべんきどくしゅ)」なる神酒を渡されます。

これは「鬼が飲めば力が弱り、人が飲めば力がみなぎる」という、鬼に「何だよその卑怯な道具」と言われんばかりのミラクルアイテムです。

頼光一行はこれを鬼に飲ませ、自分たちも飲むことでパワーアップして鬼退治に成功するのですが、『鬼滅の刃』でこのような酒の話はありません。

無惨戦において薬が無惨の力を弱らせる役割を果たしているのは、この『大江山』の神酒が元ネタになっているからだと考えられますが、いくら古典に由来するとはいえ、少年誌で主人公たちがお酒や薬でパワーアップは倫理的にNGでしょう。

そこでこの「夢で強くなるお酒をもらう」エピソードは「意識を失う、または夢で力や強くなるきっかけを与えられる」という形で活かされ、作品内で何度も見られる重要なシーンになったのだと思われます。

大江山』で夢の中で神酒を受け取ったのは頼光ですので、善逸に特にこの設定が大きく活かされているのはそのためだと考えられます。

 

もう一つ、石見神楽と善逸の技の関連も挙げておきたいと思います。
霹靂一閃のバリエーションである六連と八連ですが、これは石見神楽の六調子・八調子に由来すると思われます。
これは演舞する速さのことで、六より八の方が速くなります。
連撃の技だからと意味もなく六とか八とか付けたわけではなく、また攻撃数のみならず速さも表しているのです。

六連•八連の次が神速と名前に共通点が一見ないようですが、ちゃんと速さの順番になっていたんですね。

 

善逸の特徴は、石見神楽『大江山』からかなり多く取り入れられていることがわかります。 

 

◆設定に関連する神社は?

他のキャラクターと同様、善逸も神社に由来する設定があります。
もちろん雷に関わる神社ですが、雷を祀る神社は日本に数多くあるのもまた事実。
その中でも特に、次の二社が関係があると考えました。


まず、福岡県の雷(いかづち)神社。祭神は火雷神(ほのいかづち)または水火雷電神(すいからいでんしん)です。
天満宮も同じ敷地内にあり、禰豆子と関連があると考えられているカグツチも合祀されています。

 


もう一つは、出身地とされている新宿にある花園神社です。この神社はムカデや怨霊や鬼を退治した伝説を持つ藤原秀郷の子孫、内藤氏の土地に建てられたことから始まる神社で、ヤマトタケル弁才天を祀っており、末社に合祀された雷電神社があります。

雷の呼吸の使い手であると同時に花を愛するという設定は、出身地とされる神社からすでに読み取れることであり、「雷と花」が善逸のキャラクター設定において重要なキーワードであることがわかります。
ちなみに花園神社は近くにあるお饅頭屋さんが有名とのことですので、善逸の甘い物好きはここから由来しているのかもしれません。


◆我妻善逸の名前の由来は?

善逸はその名前も「雷」と「花」に由来するものだと考えています。

まずは苗字の「我妻」から見てみます。 これは雷に由来すると考えるべきでしょう。

我妻はあづまとも読み、雷はあずまとも読みますので、雷→あずま→我妻→あがつまとひねっていったと思われます。

我妻は地名にもありますが、ヤマトタケルの妻オトタチバナが夫を守るべく犠牲になった後、ヤマトタケルが「ああ、我が妻よ!」と嘆いたことが語源だと言う伝承があります。

 

ヤマトタケルも善逸の設定に取り入れられていて、ことあるごとに女の子を追いかけ、いろんな段階や距離感をすっ飛ばして妻を求める設定はこのエピソードから来ているのでしょう。


ヤマトタケルでもう一つ有名なエピソードは、行き違いから兄を殺害してしまうというものです。
もう一人のモデル 頼光には弟が鬼だったという伝承があります。

善逸の「鬼になった兄弟子を殺す」という話はこれらを組み合わせて出来上がったのだと考えられます。


ただ大きく違う点は、ヤマトタケルは兄を殺害したことで父から疎まれることになりますが、善逸は親代わりのような師匠(育手)に愛されたことが、兄弟子の不満と裏切りを生み、斬るに至ってしまうというところです。

ここは吾峠先生の作品個性が感じられる部分で、同じ兄を殺すエピソードでもかなり印象が違ってくると思います。


次に下の名前「善逸」を見てみます。

「ぜんいつ」という名前は今のところ、『鬼滅の刃』以外では見ない名前ではないでしょうか。かなり個性的で珍しい名前だと思いますが、これは花にまつわる名前だと私は考えています。


まず「善」ですが、これは福岡県の土居善胤(どい よしたか)氏の善から一字もらっていると考えました。

それは誰?と思う人が多いかもしれませんが、少なくとも福岡ではよく知られている人ではないかと思います。

土居善胤氏は、福岡県で伐採されそうになっていた桧原桜(ひばるざくら)という桜を人の想いを繋ぐことで守った「花守」と言われる人です。
土居氏はその時の出来事を「花かげの物語」という本にして出版しており、福岡の学生さんは学校教材でこの話を読んでいるらしいです。
つまり福岡で学生時代を過ごした人には、花といえばこの人というくらいかなり思い浮かべやすい名前であると考えられます。

花かげの物語

花かげの物語

  • 作者:土居義胤
  • 発売日: 2002/03/23
  • メディア: 単行本
 

↑広告の作者名、間違ってますね。ひやっとしました。

見にくいけど本の表紙は「善」になっています…。

善逸が愛する禰豆子の名前は、その漢字を五禰豆(ゴネズ)という花の名前から取られていると考えられ、花である彼女を一心に守る善逸に「花守」の名前が入っているのはいかにもぴったり合う感じがします。
また、吾峠先生や土居善胤氏を知る人たちにはこの善の字と花が好きというキーワードを合わせれば、花に関する漢字ではなくても日本の代表的な花である桜がおのずと連想されるのでしょう。


それでは、善逸の逸はどこから由来しているのかというと「隠逸花」から取られたのではないかと私は思います。

隠逸花とは「菊の別名」で「暗闇の中でも清らかな香りでそこに菊があるとわかる」という意味です。

これを踏まえると、炭治郎の「俺は鼻が利くんだ」「最初からわかってたよ」「善逸が優しいのも強いのも」という台詞も味わいあるものになると思います。

 

今でこそ仏壇をイメージしてしまうかもしれませんが、菊は古代から秋を代表する神聖な花です。
菊は「聴く」にも掛かりますし、耳がよいという善逸の設定にも合います。

電気照明を使って開花時期を調整する電照菊という栽培方法も知られており、花の中では雷電とのつながりを感じられやすいものかもしれません。

炭治郎とつながりがある熊野の花祭りではタンポポみたいな菊の造花が使われますし、天神(雷神)を祀る天満宮では菊が神紋の一部として使われていたこともありました。

 


また、九州には菊池氏という藤原姓から改名した一族がいるそうで、菊と藤にはつながりがあります。
藤の字を入れなくても、菊が藤を意味しており、善逸は藤原保昌の設定を取り入れていることがここからも読み取れるのです。

こうしてみると、善逸に含まれる花のイメージは、春の桜、秋の菊、初夏の藤が含まれており、雷神・菅原道真藤原保昌のつながりで冬の梅も含まれているとも言えると思います。

花の字を一つも使っていませんが、日本の四季の花が名前に入っているのです。

 

作品内では善逸は「タンポポ」という表現されており、決して菊とは出てきませんが作者としては善逸は菊をイメージしているのではないかと私は思います。
善逸の誕生日花はマーガレットですが、和名はモクソウギク。菊です。
ただ、善逸が黄色い菊の外見イメージだとすると、黄色い菊の花言葉は「破れた恋」ですので善逸が報われる日は来るのか、というのがちょっと気になるところではあります。

基本的に失恋続きのキャラクターは、こういうところでも表現されているのかもしれません。

 

◆なぜ雷に花なのか?

花園神社から花と雷の取り合わせを説明してきましたが、そもそもなぜ吾峠先生は雷と花を取り合わせようと思ったのか、私なりに考えてみました。
考えられる理由は二つあります。
一つは雷神として祀られる菅原道真菅原道真と梅花の取り合わせは一般的に有名なものです。
そしてもう一つ、これは善逸の髪が金髪になるきっかけとなった話から読み取れます。
吾峠先生が調べたであろう資料の人物の中に「雷に打たれた」という同じ経験を持つ人がいます。
煉獄杏寿郎のモデルにもなった、九州の武将 戸次 鑑連(べっき あきつら)です。
彼は雷に打たれても生き延びたことから「雷神」の二つ名を持っていました。
戸次鑑連のもう一つの名前は「立花 道雪(たちばな どうせつ)」。名前に花が入っています。

どちらも九州 福岡県には縁のある人物であり、吾峠先生とって雷神には花が付き物であり、欠かせなかったのだろうと考えられます。


◆いわゆる ぜんねず

善逸と禰豆子いわゆる「ぜんねず」について考えてみたいと思います。

作品内でいえば禰豆子は善逸からすると同期の隊士の妹であり、狩りの対象である鬼でもあるので禁断の恋とも言えますが、本人は一度もそんなことを考えたことはない様子。

一方の禰豆子は鬼にされてから意識が幼児化してしまい、善逸のことはタンポポだと思っているとのこと。

そんな二人の関係について設定の観点から考察してみたいと思います。


善逸と禰豆子は設定の時点で関係のあるものがいくつも組み込まれています。

まずネットでも善逸オリジナルの技 火雷神と禰豆子の鬼を燃やす血鬼術 爆血からみるホノイカヅチとカグツチの関係性が錆兎氏の考察動画などでも指摘されています。
共にイザナミから生まれた火神で、福岡県の雷(いかづち)神社では共に祀られています。

そして藤原保昌和泉式部の関係です。
善逸には藤原保昌ヤマトタケルの両方が設定に組み込まれていると思いますが、禰豆子との関係はヤマトタケルとオトタチバナではなく、藤原保昌和泉式部が原型ではないかと考えています。
善逸と禰豆子は少なくとも作品内では両想いではなく善逸の片思いですし、禰豆子がオトタチバナのように善逸を庇って犠牲になるような描写はありません。


藤原保昌和泉式部のエピソードで花といえば有名なのは祇園祭の山鉾でも有名な「保昌山」。元の名前は「花盗人」。
和泉式部の願いを受けた保昌が危険を侵して御所の梅の枝を手折ってくる話です。
禰豆子は善逸にその気は今のところなさそうですが、今後気持ちが傾くことがあったとしても、自発的に炭治郎から離れるという状況もちょっと思い浮かばないので、最後は善逸が飛車みたいに花である禰豆子をかっさらっていくのかなーという想像はあります。が、想像の域は出ません。

ちなみに和泉式部弁才天ともつながりがあります。

禰豆子の設定に和泉式部が一部モデルとして組み込まれているとするなら、善逸の設定に関係する神社、花園神社にもつながりがあることがわかります。花園神社の祭神は、ヤマトタケル弁才天なのです。

二人は設定の時点で複数の結びつきがあり、原型になっていると考えられる藤原保昌和泉式部は夫婦になっているので、きっとうまくいくのだろうと思います。


◆まとめ

以上、長々語りましたがまとめるとこんな感じです。

・善逸の名前は雷と花に由来する。
・モデル大庭は源頼光をベースに、藤原保昌ヤマトタケル、戸次鑑連(立花道雪)が少し。

・我妻は雷、善は土居善胤氏から、逸は菊の別名・隠逸花から。

・設定に関係する神社は雷神社と花園神社。

善逸の名前は名字は雷というわかりやすいモチーフと、花という初見では見えにくいモチーフが潜んでいて、特に下の名前「善逸」は読み解きが難しかったですが、自分なりに結論を得た時はその情報量の多さに驚きました。

ヘタレに始まり、モテない陰なキャラからボケツッコミ、やる時は期待以上にやるかっこよさまで幅広くこなすある意味、万能キャラクター我妻善逸。

死戦を潜り抜け、無事に生き延びて幸せになってくれればいいなと思います。


◆参考文献、サイト、動画
・原作『鬼滅の刃吾峠呼世晴集英社出版 掲載紙 週刊少年ジャンプ
・『公式ファンブック 鬼殺隊見聞録』吾峠呼世晴集英社出版 掲載紙 週刊少年ジャンプ
・『鬼滅の刃 しあわせの花』吾峠呼世晴・矢島綾 著 集英社出版
・石見神楽公式サイトhttp://iwamikagura.jp/
・秋の夜長に勝手に石見神楽を解説しようじゃないか。
http://iwamikagurawota.hatenablog.com/
wikipedia https://ja.m.wikipedia.org/
源頼光
藤原保昌
「雷神社(福岡県糸島市)」
「菊池」
ヤマトタケル
和泉式部
弁才天
・花園神社公式サイト
http://www.hanazono-jinja.or.jp/

・漢字辞典ONLINE.https://kanji.jitenon.jp/kanjic/1298.html

「雷」

・全力EXPRESS!
「桧原桜と「桜のリレー」(土居善胤)の現在の画像や場所はどこ?」
https://zenryoku-express.com/hibaruzakura/
・『花かげの物語』土居善胤著 出窓社出版
・花を飾る
「花のお話その43 菊は花の隠逸(いんいつ)なるものと定められてより」
 https://hana.ureagnak.com/hana_topic_43.html
花言葉-由来
https://hananokotoba.com/
「キクの花言葉
「9月3日の誕生花」
・HORTY~ホルティ~by Green Snap
「【菊(キク)の花言葉】花が咲く時期や見頃の季節は?」https://horti.jp/13218
・pixiv百科事典 https://dic.pixiv.net/
「我妻善逸」

・アニメ「鬼滅の刃 炭治郎立志編」「映画 鬼滅の刃 無限列車編」©吾峠呼世晴集英社アニプレックスufotable

・錆兎の考察チャンネル「鬼滅の刃】善逸の捨て子時代について。禰豆子を妻にしたい理由とは?【きめつのやいば】https://youtu.be/25arsj3snTI

 

鬼滅の刃 しあわせの花 (JUMP j BOOKS)

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石見神楽―舞を伝える舞と生きる

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  • 発売日: 2013/08/01
  • メディア: 大型本
 

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©吾峠呼世晴集英社アニプレックスufotable
 

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