梅下のとはずがたり

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【ネタバレ含む】伊黒小芭内の考察

 

鬼滅の刃 19 (ジャンプコミックスDIGITAL)

蛇柱・伊黒さんの名前の由来について、考察してみたいと思います。

  (※2020/8/10加筆修正しました。)

 

◆伊黒 小芭内について

21歳。
誕生日9月15日。
東京府 八丈島 八丈富士 西山 出身。
蛇の呼吸を使う蛇柱。
蛇の下半身を持つ女の鬼に捧げる生贄として育てられていたが、逃亡。
左右の瞳の色が違うオッドアイで、左目は弱視だが、首に巻き付いているオスの白蛇 鏑丸の助力を得てそれを補っている。
恋柱の甘露寺 蜜璃に好意を寄せているが、出自を恥じていることから、現世で想いを告げるつもりはない。


◆どんな蛇?

神話をモチーフにした話ならば、蛇の要素はあってしかるべきですし、資料もかなり豊富にあります。
蛇信仰は全国各地といわず世界中にありますし、ありすぎて逆にどれに絞ろうかといった具合ではないでしょうか。とはいえ有名なところを選んでしまってはすぐにマニアな読者が気づいてしまいそうです。
そして蛇と一口に言っても大きさから色まで様々です。

私は伊黒 小芭内の名前は、小さい黒蛇を意味しているのではないかと考えています。


◆苗字の伊黒について

まず苗字から見ていきます。
イグロという苗字はあるようですが、この漢字の組み合わせでは存在していないようです。
伊黒さんは黒蛇だと述べましたが、名前からそれを説明します。
蛇はイと読むこともあるんです。


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出典:モジナビ https://mojinavi.com/

 

つまり伊を蛇に変えれば蛇黒ということになります。ということで、伊黒さんは黒蛇です。
伊は伊豆諸島の伊を当てたものではないかと思っています。
黒蛇はモモソヒメの伝説に登場した夫・大物主は小さな黒蛇が正体でしたが、下の名前の小を付け加えれば伊黒さんの名前は「小さい黒蛇」と読み取ることができ、合致します。


大物主は国造りの神であり、竜蛇神であり、水神、雷神及び火神でもあります。

蛇の神様の中でも最高ランクの神様でしょう。 

◆芭という字

芭には花という意味がありますが、あえて花や華の字を使用しなかったところに、こだわりがあるのではと考えています。
芭は草かんむりに巴。
巴は神社の巴紋でも言われますが、とぐろを巻いた蛇を象っていると言われます。
巴蛇(ハダ)といえば中国の巨大な黒蛇のことです。
吾峠先生は、ここで巴の字に蛇の意味を込めているのでしょう。


◆小芭内には2つの意味がある

名前だけで言うと、伊黒さんの名前は個性派揃いの鬼滅の刃の中でも抜きん出ていると思います。
いぐろはまだいいとして、おばないってな何…?って思った人はきっと多いはずです。

この作品以外で同じ名前は見たことがありません。それだけに並々ならぬこだわりを感じます。
漢字を分解して芭が花の意味で、片目が青でかつて彼岸花は蛇花ともいうから、青い彼岸花は伊黒説もありました。


私は小芭内の名前の中に2つ意味が隠されているのではと考えています。一つは出身地とされている八丈島の大蛇伝説による「蛇から逃れた者」。
もう一つは南部九州で行われているお月見の行事で表現される「蛇の加護を受けた者」という意味です。

 

◆三宅記にある大蛇伝説


 少し長くなりますが、八丈島の「三宅記」に書かれている大蛇伝説を簡単にお話しします。


齢370を超える老夫婦が箱根の湖のほとりに住んで漁をしていた。ある日、夫は大漁を約束する代わりに水神の蛇に三人娘のうち末娘を捧げる約束をしてしまう。
約束の日、蛇が男の姿になって迎えに行くと娘たちは鳩の姿になって飛び去り、お目当ての三女は富士山の方へ逃げた。逃げた先には三嶋大明神がおり、娘が事情を話すと助けてくれるという。三嶋大明神は従神である若宮と見目(女神・弁天であり水神)に相談、娘を御嶽に隠した。見目は追ってきた大蛇に飯と酒を提供して眠らせる。伊豆諸島の王子・后(神々)が見物に来ており、眠った大蛇を斬り殺した。斬られる際に大蛇が暴れ、岩陰で見ていた水戸口の后にその尾があたり、左目がつぶれた。
事が片付いて、三嶋大明神が御嶽に娘を迎えにいくと見つからない。怒って見目に探させると、三女は躑躅(つつじ)の中にいた。三女は小蛇がいたので大蛇の眷属かと思って躑躅の中に隠れていた。着物の色と躑躅の花が重なって見えづらかったのでしょう、逃げたのではありません、と言った。大明神はこれよりこの島の躑躅は花を咲かせないように、蛇はこの島にいてはならん、といった。三人の娘は三嶋大明神の后となった。


◆大蛇伝説と重なる部分


伊黒さんは蛇柱ですが、蛇のような鬼から逃れたという過去があります。
小芭内の芭には花の意味もあり、躑躅の花の内に隠れて蛇から逃れた伝説と重なります。
躑躅の花は「鬼滅の刃」の中では鬼を象徴する花で、鬼の内にいたという意味を含んでいるとも考えられます。
また名前とは関係ありませんが、左目が弱視という設定もこの伝説と重なる部分があると思います。


八丈島が選ばれた理由


(※2020/8/10加筆修正)
鬼滅の刃のキャラクターはなぜか皆、東京またはその周辺出身となっており、伊黒さんも離島とはいえ東京出身です。
蛇の神話や伝説は数多く、東京周辺にもいくつかあります。
その中でも八丈島が選ばれた理由は、2つあると考えています。
一つは八丈島の蛇伝説が題材として面白かったから。
もう一つは、伊黒さんの設定は九州の熊本以南の西南諸島、離島をイメージしているからだと思います。
具体的にどの島かを特定するのは難しいですが、鹿児島県の鬼界ヶ島とも呼ばれる硫黄島は有力な候補の一つではないかと考えています。
ここは俊寛僧都の伝説で有名な土地です。(諸説あり。)
ご存知の方もいるかもしれませんが、俊寛僧都の伝説についてざっくり説明します。

 

俊寛(しゅんかん)は平安時代後期の僧で、陰謀を企てたかどで共犯の貴族2人と共に硫黄島/鬼界ヶ島に流刑になった。後に俊寛以外の2人は恩赦で都に帰れることになったのに、彼だけは赦されず泣き叫ぶも島に一人残され、都にはついに戻れなかった。悲劇の伝説。


この伝説は平家物語や能、歌舞伎などいろんなジャンルで作品化されており、人形浄瑠璃にも「平家女護島(へいけにょごのしま)」という作品があります。(俊寛の話はその中の「鬼界ヶ島の段」)。
「女護島」とは「女ばかりの島」という意味で、近世日本においては八丈島奄美諸島の喜界島、与那国島など実在の島がそうであるという話が普及していました。
伊黒さんは女ばかりが生まれる一族の中で、久しぶりに生まれた男だったと語られていますが、この女護島の伝説が採り入れられているのでしょう。

 

東京の八丈島と鹿児島の鬼界ヶ島が「女護島」をキーワードにして結びつくのです。


つまり、「鬼滅の刃」内では八丈島とされていますが、同時に鹿児島県の鬼界ヶ島が描かれているのです。
実際の硫黄島ですが、島には700mを超える山があり、平家の城や、熊野神社・岳の神神社(たけんかんじんじゃ/蔵王権現)をはじめとする多くの神社があります。
八丈島にも800m超の八丈富士がありますし、伊黒さんのお家もなかなかのお屋敷だったようなので特徴は似ていると思います。


ただ先にも少し触れましたが、現代では鬼界ヶ島といえば硫黄島のことですが、俊寛僧都の流された鬼界ヶ島が当時はどこのことだったのかは諸説あり、いまだ特定はされていません。
そのため私は「鬼滅の刃」内で描かれていた八丈島は主に硫黄島/鬼界ヶ島のイメージを重ねて描かれているものの、他の候補地の特徴も何らかの形で伊黒さんのキャラクター設定などに採り入れられているのではないかと考えています。
たとえばその一つに、奄美諸島の喜界島があります。こちらも俊寛僧都伝説の候補地の一つで、平家の落人、女護島の伝説で語られていた土地であり、地形の特徴は違うものの文化的な条件は八丈島に重なるものがあります。
喜界島は神の島とも言われるほど神社の多い土地で、中でも一番多いのは食物を生み出す神様 保食神(うけもちのかみ)を祀る「保食神社」だそうです。
伊黒さんが来世で食堂を営んでいるのはこのことと関係があるかもしれません。だとしたら、きっと伊黒さんは食べるより作って食べさせるのが好きなタイプなのでしょう。


◆九州南部、島と蛇


鹿児島県の島々と八丈島の結びつきは述べましたが、次になぜ蛇が結びついたのかについて、考えてみたいと思います。
八丈島硫黄島/鬼界ヶ島を結びつけるのと同時か前後しているのかはわかりませんが、吾峠先生は鹿児島県南部および周辺の離島を調べているのではないかと思います。
これは、古代日本において「隼人(はやと)」が住んでいたとされる範囲です。
隼人は日本神話の海幸彦を始祖とし、祖神火照命の末裔とされる人々。
阿多(あた・薩摩)隼人・大隅隼人の二区分があったといわれています。
他にも「日向隼人」、種子島屋久島は「多褹(たね)隼人 」、甑(こしき)島には「甑隼人」という集団がいたといわれることがあります。(ただし、これらは集団名ではなく資料の誤読ではないかとの指摘もあります。)
神話をふんだんに採り入れた「鬼滅の刃」には確実に採り入れられているはずの題材です。
たとえば甑隼人がいたという甑島(こしきじま)という離島ですが、甑(こしき)とは一般的に蒸し器のことで蛇とは無関係に思えますが、地方によっては藁で作られた保育器をこう呼ぶことがあります。
この「こしき」と呼ばれる保育器は、かつてとぐろを巻いた蛇を連想される形をしていたことがままあり、蛇がとぐろを巻く様を「こしきだてる」という表現もあります。
甑島は「続日本紀」にも登場する神話と歴史のある島で、甑大明神という神様も祀られています。
また、隼人族の盾には蛇を思わせるような逆S字が描かれています。
隼人族から九州南部とその離島、そこから蛇のイメージが浮かび、八丈島につながっていったのかもしれません。

 

◆南九州のお月見と蛇


小芭内さんの名前の中にあるもう一つのモチーフは熊本以南から西南諸島に伝わるお月見行事だと私は考えています。
その理由ですが、まず誕生日が9月15日であることが挙げられます。誕生日花はススキです。わりとわかりやすく名前に「おばな(=尾花=ススキ)」と入っています。
また暦上、ずれていくものですが9月15日は十五夜でもあります。
蛇とお月見を結びつけたのは、吾峠先生の出身地 福岡県の大蛇山祭りの影響もあるのではと思います。
大蛇山祭りとは、福岡県大牟田市の三池祇園を元に他の祭りも併せたお祭りで、大蛇山の山車の大蛇はいろいろありますが主に黒です。そして三池といえば「月が出た出た♪」の炭坑節で有名な所。祭りは夏に行われますが、大蛇祭りといえば月なのでしょう。


話を南九州のお月見に戻します。
南九州から西南諸島のお月見には本州ではあまり見られない習慣がいくつかあり、その中のひとつに綱を作るというものがあります。
その綱は、皆でひきずって町を練り歩いたり、綱引きをしたり、とぐろに巻いたり、頭を蛇頭に丸め反対を細らせるなど、蛇を意識しているものが多く見受けられます。
これは脱皮を繰り返す蛇と、満ち欠けを繰り返す月に関連性を見出だしているためと考えられます。それすなわち、死と再生です。
この蛇は水神を模していて、町に引き揚げることで清めているのです。
たとえば、宮崎県の南部えびの市では十五夜に藤葛と藁で作られた綱のとぐろの中に少年が一人入り、他の少年が線香を投げつけると中の少年が飛び出すというものがあります。
行事の意味は正確にはわかっていないようですが、蛇から飛び出した少年は命が再生する姿を表しているとも考えられますし、蛇と月の加護あるいは神力を宿しているとも考えられます。
その後、五穀豊穣と健康を祈念して綱引きをするそうです。
保育器のこしきが蛇のとぐろに似た形をしていたように、古く南九州では蛇が子どもを守る、あるいは子どもが蛇のとぐろの中で育ち加護や神力を得るという考えがあるのかもしれません。
この「蛇の内で蛇の加護と力を得た者」が、伊黒さんの名前のもう一つの意味だと思います。


◆相棒 鏑丸

最後に相棒の鏑丸についても触れておきたいと思います。
鏑丸の名前の由来は、蛇宮(じゃぐう)神社の祭神からとられていると考えています。
近くを流れる鏑川(かぶらがわ)の主であり、その姿は白蛇だそうです。
蛇を神とする神社はたくさんありますが、その中でも蛇を名前に掲げる神社から名前をとったのでしょう。
鏑丸が白蛇で伊黒さんは黒蛇。
伊黒さんの羽織の白と黒は、自身と鏑丸を表していると考えられます。


◆まとめ


一見、奇抜な名前にしか見えない、蛇にも縁がなさそうな伊黒 小芭内という名前ですが、蛇の神話や伝説、甘露寺さんとの関係や鏑丸との色のバランスまで考え抜かれた名前と設定があることがわかりました。
終戦も粘り強い戦いぶりで、大きく貢献しています。
現世で幸せになってほしかった思いはありますが、鬼のいない来世で幸せな姿が垣間見られて良かったです。
 

鬼滅の刃」の考察は九州と切っても切り離せないので、今回の豪雨災害に思い及ばずにはいられません。
今のところ祈ることしかできませんが、どうか皆さん無事で。
一日も早く天気が回復しますように。
 
◆参考文献、サイト
・原作「鬼滅の刃吾峠呼世晴 著  集英社出版 掲載紙 週刊少年ジャンプ
・「公式ファンブック 鬼殺隊見聞録」吾峠呼世晴  著 集英社出版 掲載紙 週刊少年ジャンプ
 ・pixiv百科事典 https://dic.pixiv.net/
「伊黒小芭内(いぐろおばない)」
wikipedia https://ja.m.wikipedia.org/
甑島(こしきじま)」
倭迹迹日百襲姫命(やまとととびももそひめ)」
「大蛇祭り(だいじゃまつり)」
「隼人(はやと)」
・mojinavi(モジナビ漢和辞典
「イ」と読む漢字
https://mojinavi.com/
・玄松子の記憶
「蛇宮神社」
https://genbu.net/
・龍鱗
十五夜の綱引き(宮崎県えびの市)」
「大蛇討伐(古典)/「三宅記」より」
http://www.hunterslog.net/dragonology/S/index.html
 ・「『火山で読みとく古事記の謎』トラベルガイド 神話の舞台を歩く」蒲池明弘 著 文春e-books

・喜界島酒造株式会社

「くろちゅうマガジン52」

https://www.kurochu.jp/magazine52.htm

 

 

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