梅下のとはずがたり

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【ネタバレ含む】竈門炭治郎の考察

鬼滅の刃 10 (ジャンプコミックスDIGITAL)

祝・生誕!!

炭治郎の生誕祭にネットの片隅から一筆添えたくて、竈門炭治郎の考察をしてみたいと思います。

単行本化していないところもネタバレ含んでいますので知りたくない方はご注意ください。

 

◆竈門 炭治郎(かまど たんじろう)とは

7月14日生まれ。
東京府 奥多摩雲取山(現:西多摩郡雲取山)出身の15歳。
炭焼きの家の長男として平和に暮らしていたが、鬼舞辻無惨に家族を殺され唯一生き残った妹・禰豆子も鬼にされてしまう。
妹を人に戻す方法を探しながら仇討ちを誓って、修行と選抜を経て鬼殺隊に入隊した。
水の呼吸を会得しているが、本人の体質には日の呼吸が合っており、両方を使用する。
趣味は頭突き、掃除。

 

頭突きは趣味だったのか!
もう一つの趣味は掃除だそうですが、作品内では料理がうまいことも明かされています。
働き者で家事万能。性格も穏やかとくれば結婚する男性として非の打ち所がないですね。


◆竈門炭治郎の名前の由来

まず名字の由来はネットでも言われている通り、福岡県の竈門神社に由来しているのでしょう。縁結びの神社だそうですので、炭治郎の能力の一つ「隙の糸が見える」はここに由来しているのかもしれません。
竈の神は火の神であると同時に水を支配する神様です。
炊事場である竈で火が暴走しては大変です。火の暴走を抑えるのは水。つまり竈の神は水の力も持っているのです。
また竈は家の他の場所と違い、少し暗いことからあの世との境目という考える説があります。

そして後述しますが、カマドは炭治郎の設定に関わる神の神事に使われる物でもあります。


炭治郎という下の名前にも、火と水を治めるという意味が反映されていると考えられます。
炭は火加減を操るものであり、治は河川の氾濫を抑える、水をやわらげるという意味から成り立っている漢字です。
火や水という字が直接的には使われていませんが、火と水を操る力を持つ者という意味が名前に込められているのです。

これは実は作品名にもちゃんと示されていて「鬼滅の刃」の「滅」は「水」を表すサンズイに、「火」が入った字が使われています。

火と水の力を持つ刃をもって鬼を滅する物語と読めるんですよね。すごくうまく練られた作品名だと思います。


炭治郎は裏表のない穏やかで実直な性格ですが、その人物設定には随所に「二面性」のキーワードが読み取れます。


それは衣服でも表現されていて、炭治郎は2色で成り立つ市松模様の羽織を来ています。
緑と黒の色の意味は、はっきりとわかりませんが、生命を表す緑と死を表す黒、あるいは神楽「大蛇」でスサノオノミコトが着る衣装の色が緑や黒なのでその組合せかもしれません。


◆炭治郎と大江山鬼退治

大江山」の物語視点から炭治郎を見ると、渡辺綱(わたなべのつな)のポジションにあたると考られます。
美男子だそうです。
大江山以外でも鬼と戦っており、刀で鬼の腕を切り落としたという伝説があります。
炭治郎は美男子ではなさそうですし、無惨戦で腕を失ったのは炭治郎の方でしたので、これらの点は相違していますが、渡辺綱頼光四天王の中で最も若いですが、筆頭とされている人物で、一方の炭治郎は同期の善逸・伊之助との三人組の中で実は一番年下で、長男力を発揮してまとめ役になっているところは共通している点だと思います。
大江山の鬼退治では、一行が舞を舞って(神楽ではない)鬼を油断させるというくだりがあるのですが、鬼滅の刃では神楽が鬼を攻撃する技になっているところは面白いと思います。


渡辺綱は現在の埼玉県鴻巣市の生まれで、先祖の住まいがあったとされている土地の近くには渡辺綱が勧請したという箕田氷川八幡(みのたひかわはちまん)神社と、創建に関わったという宝持寺(ほうじじ)があります。


宝持寺には渡辺綱のものと伝わる太刀が残されており、宝持寺のホームページの写真で拝見する限り、黒い太刀のようです。炭治郎の黒い日輪刀と重なります。


箕田氷川八幡神社スサノオノミコトを祀っており、こちらも炭治郎の設定にかなり深く関わっています。


◆炭治郎とスサノオノミコトと熊野

では、スサノオについて見ていきます。
スサノオノミコトは「古事記」では黄泉の国から戻ったイザナギがみそぎを行った際にアマテラスとツクヨミに次いで「鼻」から生まれた神様とされています。
炭治郎の優れた才能の一つ「鼻が利く」という設定は、思いつきで与えられたものではないことがわかります。


また「日本書紀」では、イザナギイザナミの間に生まれたとされていて、アマテラス・ツクヨミヒルコの後に生まれたとされ、
高天原で暴行を働いたことから追放されて根の国に赴こうとした話があります。(古事記ではスサノオ根の国の支配者になっています。)

 

スサノオは死んでしまったイザナミを思って泣いたり、妻になる女性とその家族のためにヤマタノオロチを退治するような情に溢れた英雄的な面を持つ一方で、高天原で乱暴狼藉を働く鬼のような荒々しさもある二面性を持つ神様です。

そのためかとても人気のある神様で、祀られている神社も全国にあります。

その中でも特に有名な聖地といえば、熊野三山ではないでしょうか。

出雲の祖神でもあり、一般的には海神や農耕神として祀られているスサノオですが、火神として祀られているところもあります。

島根県松江市の「熊野大社」という神社です。

別名「日本火出初之社(ひのもとひでぞめのやしろ)」とも呼ばれ、火の発祥の神社といわれていますが、ここに祀られているのがスサノオノミコトです。
ここではスサノオは人の世に初めて火をもたらした神様だと言われているのです。

熊野大社はもちろん和歌山から三重南部の熊野地方にある熊野三山とつながりがあります。

炭治郎が熊野大社スサノオと関係していることは出身地からも読み取れます。
炭治郎の出身地は雲取山ですが、この山の名前は熊野古道の大雲取越・小雲取越に由来している名前だそうです。
熊野古道とはその名の通り、熊野信仰の本拠地・熊野三山へ詣でるための参道。
熊野本宮大社が祀るのは家都美御子大神=スサノオノミコトです。
適当に雲取山が出身地と設定しているわけではないんですね。

 

火の神?水の神?

少し話がそれてしまうのですが、スサノオノミコトの神としての属性について、一般的に考えられていることとは違う説を挙げてみたいと思います。

というのも、吾峠先生はこの説を支持した上で炭治郎の設定に組み込んでいるのではないかと考えているからです。

先の項で触れた通り、スサノオノミコトは一般的には海神とされているが、一部で火神として祀られています。

しかし、世で一般的に支持されていることとは違い、「スサノオノミコトは本来、火山の神ではないか?」とする見方があります。

(個人的に説得力がある説だと思いますが、あくまで少数派です。)

古事記日本書紀スサノオの描写が火山活動を描写したものとも読めることなどが理由として挙げられますが、かなり長くなってしまうので詳しいことは別の機会に譲ります。

しかし、父であるイザナギに命じられたのは、真逆の性質の海の支配。

海神ではあるけれど、本来の性質は火神。

水の呼吸を会得しながら、本来の体質は日の呼吸が合う炭治郎に重なります。

そして、スサノオを火神とするならば、妹の禰豆子の設定に関わっていると考えられる火神カグツチと同じ性質を持っているということにもなります。

さらに火の中でも火山の神だとするならば、炭治郎の日輪刀が黒い理由も火山内部から採れる黒曜石をイメージしているからだと考えられます。黒曜石は古代日本において、刀剣の材料でした。

 

スサノオと同様に水ではなく火山を象徴するのではないかと考えられている存在がもう一つあります。

それがスサノオが退治したというヤマタノオロチです。

ヤマタノオロチは一般的に河川の氾濫を象徴するものだと考えられていますが、その姿の描写から火山の溶岩流ではないかという説もあります。

だとするなら、スサノオヤマタノオロチは火と水の両面を持つ同質の者同士ということになります。

 

鬼舞辻 無惨が自分の行いを災害のようなものと例えるセリフが作品中にもありますが、鬼の力とは山、もっといえば地下に眠る火山の力と言えるかもしれません。

 

先ほど炭治郎の炭は火を操る意味があると言いましたが、もう一つ漢字のパーツをそのまま見てみると、炭という字は山の下に火があります。

漢字の成り立ちとは違いますが、この要素をそのまま視覚的にとらえた場合、山の地下で燃え盛る火、火山のイメージを重ねることができます。

炭治郎が鬼の要素を持っていることが名前からも読めるのです。


スサノオノミコトの別の姿

スサノオは「牛頭天王(ごずてんのう)」という神様と一体で信仰されることがあります。

 

これは「本地垂迹(ほんじすいじゃく)」という仏教の考え方で、仏様が世の様々な人々を救うため、それに合わせて様々な神様などの姿をして現れるというものです。
その考えに基づくならば、スサノオノミコト牛頭天王でもあるのです。

 

牛頭天王祇園精舎の守護神なのですが、疫病を思いのままに操る力と、疫病から守護してくれる力を持っている疫病神とされています。
神様ですが、二本の牛の角を持つ巨人の姿で表されることもあり、その姿はまさに鬼のようでもあります。
炭治郎に鬼の素質があるというのは、スサノオの荒々しい一面と共にこの部分が反映されているのでしょう。
無惨戦での変貌は設定の時点から考えられていたことだったのです。


牛頭天王を崇める祇園信仰は全国各地にありますが、特に京都の八坂神社が行うお祭りは有名です。
日本三大祭のうちの一つ、祇園祭がそれです。


炭治郎にこの牛頭天王の設定が取り入れられていることは、誕生日からもわかります。
祇園祭は7月から一ヶ月にわたって開催される大きなお祭りですが、7月14日は山鉾が登場する宵山の前祭の初日にあたります。


牛頭天王スサノオと合わせて祀られる一方で、大国主(おおくにぬし)の荒御魂ともいわれています。
そして大国主はカナヲのモデルと考えられる女神 イチキシマヒメの夫だとされています。


スサノオノミコト酒呑童子の因縁

ここまで炭治郎の設定にスサノオが深く関わっていることを述べてきました。

では、そもそもなぜスサノオを炭治郎の設定に組み入れることにしたのでしょうか。

先述の通り、渡辺綱スサノオは無関係ではありませんが、それだけでは説明できないほど炭治郎の設定はスサノオの影響を多大に受けています。


スサノオといえば、有名なのはヤマタノオロチ退治で、鬼退治は聞いたことがありません。


その答えになりそうなものを「大江山」で鬼の首領であった酒呑童子の伝説から得ることができました。


酒呑童子にはいくつかの伝説がありますが、その中の一つに「酒呑童子ヤマタノオロチと人間の女性の間に生まれた子ども」だったという説があります。

その伝説ではヤマタノオロチスサノオに斬られるも死なずに逃げ延び、裕福な人間の女性と結婚し子どもをもうけたそうです。

 

炭治郎をスサノオに見立てたならば、「鬼滅の刃」は「大江山」の鬼退治の物語でありながら、仕留め損ねたヤマタノオロチスサノオが再度挑む物語とも読めるのです。


◆まとめ

ようやく主人公 竈門炭治郎の考察を書くことができました。

主人公だけに、一見して単純なようでいて実はかなり深みがあり、一度書き始めてまとまりがつかなくなっていました。

結局、少し削った部分もあり、今も書きながらそのうち大幅な加筆修正をしなければならないのではないかという念が拭いきれません。

家族や仲間思いでたまに天然で、いつもは穏やかだけどいざという時はやる、強くて頼れるお兄ちゃんは「鬼滅の刃」の大きな魅力です。

痣を持っていた炭治郎がその後、どんな人生を生きたのかは描かれませんでしたが、子孫が幸せそうに暮らしているところをみると、余生が長いにしろ短かったにしろ、きっと幸せだったのだろうと思います。

思いますが、正直もうちょっとそのへんが見たかったので番外編とか出ないかなと夢を見ている今日この頃です。

 

 

 

◆参考文献、サイト
・原作『鬼滅の刃吾峠呼世晴 著  集英社出版 掲載紙 週刊少年ジャンプ
・『公式ファンブック 鬼殺隊見聞録』吾峠呼世晴  著 集英社出版 掲載紙 週刊少年ジャンプ
・石見神楽公式サイト

http://iwamikagura.jp/
・秋の夜長に勝手に石見神楽を解説しようじゃないか。
http://iwamikagurawota.hatenablog.com/
wikipedia https://ja.m.wikipedia.org/

渡辺綱

祇園祭

牛頭天王

本地垂迹

・宝満宮 竈門神社 公式サイト

https://kamadojinja.or.jp/

曹洞宗 宝持寺 公式サイト

http://hojiji.com/

・猫の足あと  埼玉県寺社案内

https://tesshow.jp/saitama/konosu/shrine_mita_hachiman.html

・み熊野ねっと

https://www.mikumano.net/kodo/kodokumotori.html

・『酒の伝説(Truth In Fantasy88)』朱鷺田祐介新紀元社出版

・『火山で読み解く古事記の謎』蒲池明弘著 文藝春秋

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