梅下のとはずがたり

思いつきを長々と語るブログ

【ネタバレ含む】嘴平伊之助の考察   

鬼滅の刃 7 (ジャンプコミックス)

あまりネタバレするのは本意ではありませんので可能な限り回避するつもりですが、考察する以上漫画の内容に触れざるを得ないため念のため【ネタバレ含む】を明記しました。
ネタバレNGの方はご注意ください。
そもそも原作を知らない人には全く面白くない話でもあります。

まずはあまり作品内で情報がないためか、掘り下げの少ない伊之助からモデルや名前の由来を考察してみたいと思います。

いの一番とも言いますし。

炭治郎や善逸と違ってモデルが見つからないとも言われることがある伊之助ですが、モデルはいますし、炭治郎や善逸と同じくらい作り込まれているキャラクターである説を世界の片隅から主張したいと思います。

◆まずはプロフィールから

公式ファンブックやpixivを参照しています。
(よくご存知の方もいらっしゃると思いますが、ファンブックはたまに間違ってる箇所もあるみたいですので。。。)
参考文献やサイトは、文末にも詳細をまとめて記します。

嘴平 伊之助(はしびら いのすけ)

東京府 奥多摩郡 大岳山出身の15歳。
4月22日生まれ。
好戦的な性格で猪頭の皮を被り、基本的に上半身は裸。独自で会得した「獣の呼吸」の使い手。
二刀流で刃をわざとガタガタに欠けさせた刀を扱う。
母を鬼に殺され、自身は川に捨てられるも猪に育てられて生き延びたため、山育ちを超えた野生児。
人の世の常識が通じない言動が多々ある。
皮膚の感覚が鋭く、人間離れした柔軟性を持っている。
猪頭に隠されている顔は、女性と見間違うほどの美少年。
座右の銘は「猪突猛進」。

◆モデルについて

私は「鬼滅の刃」特に無限城から無惨戦については石見神楽の「大江山に拠っていると考えていて、その中でも伊之助は坂田公時(金時)にあたると考えています。

なぜ石見神楽かは根拠はありますが、次回以降に譲って今回は省きます。
坂田公時(金時)といえば天然パーマに悪い奴は…ではなく、幼名 金太郎が有名な伝説の人物です。

そして、神様と仏様からも着想を得ていると思います。

◆坂田公時(金時)と伊之助

坂田公時(金時)については実在を含め諸説ありますが、wikipediaを参考に、一般的な伝説を簡単に記します。
ポイントを箇条書きするとこんな感じです。

・山で母に育てられる。
・成長して頼光四天王の一人となる。
酒呑童子と呼ばれた鬼を退治した。
・愛刀の名は「浪切」。
・後に九州に向かう途中に病で亡くなった。
・死後は栗柄神社に祀られた。


母子家庭だった、成長して武装集団の仲間になった、鬼を退治するなど、重なるものがあります。

坂田公時は、一般的には母子家庭とされていますが、別の説では山姥に育てられたという話もあります。
藤の家のひさおばあさんに弱いという設定は、ひょっとしたらこの話を意識しているのかもしれません。

かなり個性的な印象を与えている被り物をしているという外見の設定は、神楽から取り入れられたものではと考えています。

というのも、石見神楽「大江山」での坂田金時は、その成長ぶりをアピールする見せ場があるのですが、それがお面を取るという動作なのです。

鬼退治を経て、彼は少年から大人になるわけです。
ちなみに髪型は変えられないので、おかっぱみたいなままです。

伊之助はおかっぱではないですが、肩までかかるやや長髪の髪型で少し似ています。

神楽のように、いつかその成長を見せる場面で伊之助が猪の皮を自ら取ることがあるかもしれません。

◆嘴平の嘴はどこから?

 次に名前の由来を考えていきたいと思います。
鬼滅の刃」の吾峠先生はストレートに名前をつけない傾向があり、たとえば花の呼吸を使うから花村とか、風の呼吸を使うから風祭とか、坂田金時をモデルにしてるから坂田とか、そういうわかりやすい名前の付け方はしていません。
だからこそ、意味がわかったら(と思われる時は)とても面白いです。

では伊之助の場合はどうなのかというと。

まず、嘴平(はしびら) ですが、この漢字を使った苗字は存在しないようです。

読み方が似たもので橋平(はしひら)はあります。漢字の雰囲気でいうと鳥平(とりひら)という苗字もあります。

ですが、嘴(くちばし)に平(ひら)という組み合わせは存在しない、つまりここに吾峠先生の意図があると見るべきでしょう。
まず気になるのは、名字でも文章でもあまり見かけることのない「嘴」の字です。
第一印象として、鳥なの?と意外に思ってしまいます。伊之助のイメージであれば、獣の呼吸の使い手やその動きから四足獣をイメージする漢字を持ってくるかと思いきや、なぜか名前には鳥をイメージする字が使われているのです。

これは伊之助をモデルにしている坂田公時の経歴を見てみると、一つの答えが導き出せると思います。

先述の通り、坂田金時が祀られているのは栗柄(くりから)神社です。
この栗柄とは、倶利伽羅(くりから)を意味しています。

倶利伽羅と言うのは、倶利伽羅竜王のことであり、不動明王そのものです。

不動明王の姿ですが、青い肌で後ろに炎の神鳥 迦楼羅(かるら/ガルーダ)を背負い、倶利伽羅剣を持った姿で表現されています。

その像などを見ますと、背後を飾る炎は迦楼羅を示す鳥の姿あるいは鳥の頭になっているものがあります。
嘴平の嘴はこれを意味しているのです。


(★申し訳ありません。できればわかりやすい像の写真を入れたいのですが、今のところちょうどよい手持ちの写真がありません。コロナ禍が終息すればきっと)

不動明王自身は青い肌が特徴的で、上半身が裸です。これが皮膚感覚に優れ上半身が裸という伊之助の設定に結び付いたのではないでしょうか。

◆嘴平の平とは?

嘴は良いとして、平は何なのか?という疑問が残ります。

これは決定的な答えを見ませんが、吾峠先生は伊之助の苗字を決めるにあたり、鳥平と平橋という苗字を候補にしていたのではないか、と私は想像しています。

平橋は天満宮や天神社にある三つの橋の一つで、過去・現在・未来のうち現在を表す橋であり、
また傍には琴柱(ことじ)という灯籠もあります。
母・琴葉の名前と関連があるかもしれません。

この橋を渡る際は決まりがあります。
「振り返ってはいけない」のです。

猪突猛進を旨とする伊之助にぴったりですが、平橋と付けたのではそのまますぎます。
そこで橋平とし、橋を鳥の一部である嘴の字をあて、嘴平としたのではないかと。

ところで、不動明王は仏様です。
なぜ天神信仰、つまり神様を祀る天満宮のモチーフがいきなり出てくるのかと疑問に思われる方もいらっしゃると思います。
これは作者の出身地、九州は福岡県に答えがあると考えられます。

太宰府天満宮ではかつて仏の三位一体像として不動明王が祀られていたのです。その不動明王の髪型はおかっぱみたいなやや長めの髪です。
(現在は歴史的な事情により大興寺に安置されているそうです。)

不動明王天満宮は、福岡では考えられ得る取り合わせなのです。

◆ 伊之助の日輪刀

不動明王と坂田公時から読み取れることがまだあります。
それは伊之助の日輪刀についてです。
伊之助の刀はわざと欠けさせてガタガタしていますが、ノコギリみたいなギザギザではなく、大きく欠けてどこかナミナミした感じに見えます。本人いわく「ちぎりさくような切れ味」らしいので、おそらくギザギザに切られるのだと思います。(痛そう。)
そして二刀流です。

不動明王の特徴は倶利伽羅剣を手にしていることです。
倶利伽羅剣とは、竜が絡み付いた「両刃の剣」です。
さらに別にモデルになったと考えられる坂田公時(金時)の愛刀は「浪切」という名前でした。

この二つの要素が組み合わさった結果、伊之助は「ナミナミに刃の欠けた、あるいはナミナミに切られる刀」を使う「二刀流」の剣士という設定になったと考えられるのです。

また日輪刀の色は藍鼠色ですが、これはひょっとしたら嘴から鳥のイメージを連想して、五位鷺(または青鷺)の色を取り入れたのかなと考えています。
伝説で鳥の王とも言われていますし、炭治郎たちとのバランスもあるかもしれませんが、イメージカラーが青の伊之助に合いそうです。
ただ、夜烏とも呼ばれており鳴き声はきれいではなさそうなので、伊之助の声が美声でないのは
ここから由来しているのかもしれません。

◆伊之助が猪である理由

次に伊之助という下の名前について考えてみます。

猪の皮を被っているから、いのすけなんだろうというのはもっともなのですが、そこで猪の字をそのまま使って、猪之助とストレートにつけないところが吾峠先生の名付け方なのかなと思います。

そもそも、なぜ伊之助は猪なんでしょうか。

伊之助の出身地とされている大岳山は御嶽山に連なっており、そこには武蔵御嶽(むさしみたけ)神社という神社があります。
この神社は狼を祀っており、近くの山が出身地であるならば、この神聖で猛々しい狼イメージを採り入れてもかっこよかったでしょうし、金太郎つながりなら真っ先に思い浮かぶのは熊ではないでしょうか。
柔軟性なら猿とかでも良さそうです。
熊ではなく猿でも狼でもなく、なぜ猪なんでしょうか?

私はこれも倶利伽羅のキーワードで読み解けるのではと考えています。
倶利伽羅に繋がりのある神様がいらっしゃいます。通称・蔵王権現です。
その正式な御名前は、倶利伽羅 金剛蔵王権現

先述の武蔵御嶽神社にも、この蔵王権現が勧請されています。
蔵王権現は日本独自の神様とされていますが、青い肌、倶利伽羅剣、背中に炎を背負う外見はインドの仏教を由来とする不動明王とそっくりなのです。
不動明王もその別名に金剛不動明王という名前があり、金剛という言葉が共通しています。

金剛とは堅い・最勝などの意味です。ざっくりいうと強いってことですね。
私は、この「金剛」が伊之助が猪たるキーワードになると考えました。

この金剛の名を持つ仏様に、金剛面天という仏様がいます。天は仏様の位でいうと明王より下位の仏様です。

金剛の面を持つ天。ではその金剛面とはいかなるものか。この金剛面天には別名があります。

その名も猪頭天。

そう、猪の頭をしているのです。
金剛面とは猪面なのです。
つまり、金剛=猪=すごく強い!

山育ちだからとなんとなく猪が選ばれたのではなく、ちゃんと由来と意味があるのだと私は思います。

◆鬼夜と猪頭の輪郭

これは印象に過ぎませんが、福岡で催される日本三大火祭の一つ、鬼夜に登場する褌姿の男性陣や赫熊(しゃぐま)を彷彿とさせると個人的に思っています。

特に赫熊、これは子どもたちが演じるのですが、藁で作った被り物が猪みたいな形なのです。
吾峠先生は福岡出身ですので、鬼夜はよくご存知のはず。というか作品のテーマの一部になってるとすら考えています。
赫熊の輪郭が先生の意図あるいは意識の中にあったのかもしれません。

◆まとめ

ポイントをまとめると下記のようになります。

•伊之助のモデルは坂田公時(金時)。
倶利伽羅をキーワードに不動明王蔵王権現も設定に使われている。
•かぶるものが猪になったのは、思いつきではなく理由がある。

吾峠先生が今後たとえば連載終了後などに、キャラクターの解説などをしてくださらない限り、どのように考えていたとしても、そのほとんどの設定は作品の中で登場することはありません。
ですが、吾峠先生は一人一人の人物設定を丹念に調べられた上で、ものすごく作り込んでいるのではないかと私は思いました。
さらに先生の凄いところは、それを巧妙に隠して容易に見せないところだとも思います。

伊之助を構成したと思われる人物や神様や仏様をまとめると、困難を前にしてもひたすらに前進して成長していく、そういうキャラクターが設定の時点から意識され、強い思いを込めて作られていることが物語の外からも読み取ることができます。

伊之助は人の世界で何となく「こんなもんだろう」とか、「当たり前」だと思っている価値観がなくて、鬼殺隊に入隊してから自分の感覚で掴みとっていく、たまに掴めていないところもかわいげがあり魅力的なキャラクターです。

無惨戦に突入してからは困難にぶち当たることが多く、なんだかよく泣いていますが(意外と泣き虫。)
柱になるところが作品中で見られるかどうかはわかりませんが、個人的には野獣柱、猪柱よりは獣(シシ)柱あたりを作品内でキャラクターの誰か提案してくれたりしないかなと願っています。
今後の成長が楽しみです。

◆ 参考文献、サイト

・原作「鬼滅の刃吾峠呼世晴集英社出版 掲載紙 週刊少年ジャンプ
・「公式ファンブック 鬼殺隊見聞録」吾峠呼世晴集英社出版 掲載紙 週刊少年ジャンプ
・石見神楽公式サイトhttp://iwamikagura.jp/
・秋の夜長に勝手に石見神楽を解説しようじゃないか。
http://iwamikagurawota.hatenablog.com/
wikipedia https://ja.m.wikipedia.org/
「坂田公時(金時)」
倶利伽羅剣」
不動明王
蔵王権現
迦楼羅天
大興善寺公式サイト
https://daikouzenji.com/
・武蔵御嶽神社公式サイト
http://musashimitakejinja.jp/
成田山深川不動堂公式サイト
http://fukagawafudou.jugem.jp/?eid=768
・神魔精妖名辞典https://myth.maji.asia/ko.html
「金剛面天」
・pixiv百科事典 https://dic.pixiv.net/
「嘴平 伊之助」
・Petpedia
ゴイサギはどんな鳥?特徴や生態を紹介」
https://petpedia.net/article/745/night_heron


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絵も描きたいなと思ってはいるものの、思っているだけ。

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